年金運用の現実

ぐるぐるしていたら、年金運用に関するコメントにぶつかったので、レスしてみる。
#ま、現実を知っておいてもらっても良いと思うし。


一応、元となったアンケートについて解説。
日経「経済教室」で12日に載っていた、首藤教授のアンケート、実は私も1回目は参加していたりしてます(汗)
確か首藤教授と大和総研の共同調査じゃなかったかな。後に証券アナリストジャーナルでも論文が出ていたはず。
基本的にはその再録プラスアルファと考えてよく、主張自体に目新しさはないです。


それはそうとして、基本的には答えにくい内容だったのを覚えている。
例えばコメントでも問題になっているように「顧客の短期指向の要請を受けて売買する傾向」はあるか、って聞かれて
どう答えればいいのよ。運用機関と言えど、顧客の指示は絶対命令だよ、普通。
#俺たちだって客商売なんだよ(激汗)




でもって害債氏のコメントに反応しておくと。。。

仰る通り、日本におけるアンケートの大半は年金を運用している投資顧問のファンドマネージャーに送られました。
一般的な話を申し上げると、日本において(多分世界的にみてもそうだと思うが)ファンドマネージャーというのは
単一の運用資産を取り扱っているものです。(大抵の場合、顧客から指示されたベンチマークと戦っています)
よってアセットアロケーションは担当していません。アセットアロケーションは「ポートフォリオマネージャー」という
別の担当者が勤めます。


さらにいえば一般的には現在の日本において投資顧問が国内外の株式・債券に自由に投資出来る「4資産バランス運用」を
受託するケースは非常に少ないでしょう。大抵の場合は「国内株式」とか「海外債券」とかの単一資産への「特化型」
ファンドを受託していると思います。
というのには2つの原因がありまして、第一には委託者側が自らアセットアロケーションを担当する傾向が強まったことがあります。
委託者側は(時として年金コンサル会社の指導を受けながら)アセットアロケーションを担当することにより、基金全体の
資産運用を安定的に行いたい、また90年代の規制緩和によって年金市場に新規参入を果たした投資顧問側も特徴ある特化型運用の方が
セールスしやすかった(それまで多くのシェアを誇った信託銀行や生命保険はバランス運用が大半だったし、新規参入時にすべての資産の
運用体制を構築するのはお金も掛かるし、なにより投資顧問には合同運用が認められていなかったのでバランス型運用はコストが掛かる)
という側面もあります。


第二の原因はパッシブ運用の進行です。90年代を通じた長期の不況により、年金基金も財政が厳しくなってきました。
これと上記の委託者によるアセットアロケーションが重なった結果、年金運用の世界ではパッシブ運用の規模がどんどん拡大しました。
まあ、パッシブ運用の方が委託手数料は低いですものね(汗)
その結果として、運用資産はパッシブ運用を得意とする一部大手運用機関に流れ、特徴あるアクティブ運用で相対的に高い報酬を
要求する投資顧問(というかアクティブ運用全般)は相対的に敬遠されたのです。



  • 日本におけるマネージャーセレクションの期間は結構短い

えー、日本における年金アクティブ運用においては一定期間が経過すると受託機関を入れ替える事態が発生します。
要は下手な運用機関にはお引き取り願って別の運用機関に委託しなおす訳ですな。
この場合の評価期間がどの程度だか知っておられますでしょうか。
大抵の場合、3-4年ですね。その間の成績が下位に落ちると当然のように「クビ」を宣告される訳です。
最近は過去の取引関係も考慮されず、純粋に成績でクビにあるケースも結構あります。
#というか、成績が悪いと中途解約されることもあります(当然ですね)


コンプライアンスが厳しくなった昨今、委託者側にも「運用責任」はある訳ですから、そこら辺はきっちりやってこられることが多いです。
また四半期に1回は詳細な運用報告を行う場合が多いです。大手顧客の場合は運用担当者が直接顧客を訪問してみっちりと
ヒアリングを受けることを要請されます。


そうした場合、運用担当者としては、毎四半期ごと、下手すりゃ毎月ごとに高パフォーマンスを要求されることになりますが、
それ以上に問題なのが「大負けする」ことです。アクティブ運用において大きなリスクを張っていて失敗し負けが込んでしまった場合、
その負けを取り返せないままに評価期間を終えてしまい、成績が下位になってクビになってしまうリスクを避けなければなりません。
#ちなみに、「大負け」したからといって一発逆転を狙って大ばくちをうつ、なんてことはしませんよ(当たり前)


以前より大きめのリスクを取るよう要請してくる委託者さんも増えて来てますけどね。



顧客説明の際、先方に必ずしも運用に詳しい方が来られるとは限らないので、誰でも知っている日経平均で説明することは多々ありますが、
さすがに日経平均ベンチマークに指定してくる委託者さんはおられないですね。(大抵はTOPIX
もちろんS&P500をベンチマークに指定されるところも少ないです。まあ、「外国株式」としてのくくり方が大半なので米国株式のみを
対象とするS&P500ではカバー出来ないせいでもありますが。大抵はMSCI-KOKUSAIになると思います。






うーん、長々とした言い訳っぽくなってるな(激汗)
要するに今の日本の年金運用の世界は長期的な視点に立ったアセットアロケーションを年金基金(委託者・顧客)と年金コンサル会社
(大手運用機関の大半は当然この分野に進出している)で個別にきっちり組み込んで資産配分を決め、各資産の運営は短期的なリターンの
積み重ねで取っていくというのが一般的なんですね。もちろん、各資産内部でも「リスクを極限まで殺したパッシブ運用」「リスクは
ほどほどにとってそれなりのパフォーマンスを狙うコアなアクティブ運用」「ハイリスク・ハイリターンを追求するサテライトな
アクティブ運用」「思いっきりばくちをうつのも許容するオルタナティブ運用」にきっちり分けて、それぞれ得意な運用機関に委託している、
って感じですね。
その辺りは諸外国とそう変わらないのですが(むしろ日本の年金基金は進んでいるかもしれない)90年代の経験から年金財政に対する
リスク許容度が低く、短期的な利益を追求する傾向があるので、資産を受託するファンドマネージャーも同様の傾向があるような気がします。




・・・とここまで書いてふと気がついたんだけど、海外のアンケート回答者はどんなファンドを受託しているんだろうね。
彼らがハイリスクハイリターンを志向するタイプのヘッジファンドを運用していたんだったら、当然リスク許容度は高いだろうし、
パッシブファンドのマネージャーなら当然リスクは限界まで回避しているはずだからである。


マクロ経済の観点から考えても、例えば米国に対し高齢化が進んでいる日本においては年金財政は相対的にリスク回避的になることを
求められるはずなので、国際比較を行う際にはそういった観点からも考えないといけないかもしれないです。